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ユーザーエンゲージメントとは?

最近、「顧客作りと情報発信」をテーマとしていろいろな会社や団体を回ったり、話しを聞く機会があるのですが、それを繰り返していると、顧客作りにたいする潜在的な欲求がいくつか見えてきました。

 

その中の1つに、「出来るだけ楽に顧客を作りたい」という欲求があります。

顧客作りを担当している担当者はみな非常に忙しいので、出来るだけ楽に顧客作りをしたいと思うのは当たり前のことだと思います。

また、「ソーシャルが出来たので顧客作りが簡単になる」という期待感も多いようです。

取り敢えずやってるというところは多いですが、方針決定をする人達が現場で苦労する人達のことをあまり理解できないまま、ソーシャルやれば何とかなると思ってしまっている例も多そうです。

 

本当にソーシャルは顧客作りを楽にしてくれるのか?

この辺りの、ソーシャルを通じた顧客形成のキーワードとして、最近海外から「ユーザーエンゲージメント」という考え方が入ってきていると思うのですが、少し分かりにくい英語で、少なくとも自分は最初聞いたときは???でした。

試しにエンゲージメントという言葉を検索してみたら、facenaviさんから、Facebookエンゲージメント調査結果、というものが発表されていました。これによれば、エンゲージメントとは、実際にアクションが取られたかどうかの指標だ、ということです。

これについてはマーケターとしては何か分かりやすい数値的指標が必要ということだと思いますが、前提となるエンゲージメントの概念についてはこれから仕事において追究していくテーマにも含まれるものなので、自分なりの解釈を書いておこうと思います。

 

現在、エンゲージメントという言葉が日本でどれくらい市民権を得ているかまだ分かりかねていますが、僕がこの言葉に始めて出会ったのは2010年でした。

そのとき担当していたリサーチ事業において、ボストンで行われた業界カンファレンスに出席したのですが、今後のマーケティングにおいてはBrand engagement, customer engagementが極めて重要であり、リサーチ事業においても、このengagementを生み出す人の気持ちの源泉を探るようなリサーチをしなければいけない、これからはそういうものが顧客に求められるという話しが強調されていたのです。既にそのテーマだけで1つのセッションコースが出来ているほどでした。

自分はそのとき、engagementという英語の言葉の意味がいまいち掴みきれなかったのですが、実は、その時は会場にいた米国の業界の人達も、その意味をはっきりと分かっている人は多くはなかったようです。

有名リサーチャーの講演会場は満席で、会場からも盛んに質問が飛び出していましたが、英語の世界でもこのengagementという言葉を明快に解説する説明は出てこず、伝えたいことや、何となくみなが共通に感じる課題意識はあるのですが誰もうまく説明できない状態でした。まだまだ言葉先行という雰囲気が濃厚に漂っていたのです。

 

なぜ、2010年のリサーチ業界でcustomer engagementという言葉が大きなテーマになっていたのか?

それはfacebookの社会インフラ化が、人々の情報消費行動を大きく変えるとともに、元々存在していたengagementという概念を具体的に実行できてしまう環境を整えつつある、という認識があったことに大きく関連していました。リサーチ業界が上客とする消費材メーカーを中心に、商品展開をする上で商品開発そのものよりもその後のブランドコミュニケーションが重要であると考えはじめていたこと、ブランドコミュニケーションの根本をマスマーケティングではなく個人毎の嗜好に心地良く響くパーソナルマーケティングに置く必要があると考え、自ら実行する事例が多く出始めていたのです。

そこで鍵となったのは、単に「顧客の嗜好に合わせる」ということに加え、「顧客が進んで選択してくれる」ための日々の顧客の生活の中に入り込んだ接点の構築であり、琴線に触れる開発ストーリー作りであり、それを「すぐ隣にいる信頼できる普通の人」が媒介してくれることでした。そして、これら一連のものを全て含む概念としてcustomer engagement、brand engagementという言葉が使われていたのだと、今振返ってみると思います。 単に「顧客嗜好を知る」ということではなく、「顧客自身も嗜好を知らない」「現状にそれほど大きな不満は無い」「嗜好に合わせた商品を提示されるだけでは実は退屈していて、行動には移らない」といった状況に対して、更に一歩踏み込んだマーケティングが必要になっているという時代背景があるように思います。

リサーチ業界において、MROC(Marketing Research Online Community)と呼ばれる調査手法が盛んに研究されるようになったのは、まさにこの一連の流れが出来る過程を経過観察する中から必要なdeep insight(心理洞察)を抽出することが必要だという認識があったからです。リサーチが、決められたテーマに沿ってリサーチするだけで終了するのではなく、その後の企業のマーケティング活動全体と直接連動することを意識した提案が出来るリサーチに変わっていくし、そうなっていかなければ業界価値そのものが失われる可能性がある、リサーチ自体も、エンドの消費者と直接コミュニケーションをしていく中でブランドと消費者の間にengagementが生まれる過程の琴線に触れるスキルを持った専門家集団になっていかなければならない、そういう危機感が満載だったのです。

気がついたらかなりリサーチの話しに寄ってしまいましたが、engagementという言葉が従来のブランドマーケティングに新しく加えた要素は何か。それはつまり「時間」なんだと解釈しています。

わかりやすい例で言えば、婚約をすると、engage ringを交換しますが、engagementというのはつまりそういうことです。長期的に相手に対してコミットするということです。

 

facebook勃興以前から盛んに言われていたバズマーケティング、と呼ばれるものと、customer engagementが生まれる過程やそのためのマーケティングが違うのはつまりそういった部分にあります。バズマーケティングというものが一過性の口コミの拡散であり、衝動的な欲求を生むことを目的にしているという意味ではテレビコマーシャルと大した変わりが無いのに対して、customer engagementという概念に基づくマーケティングでは、長くじっくりと関係を作っていき、信頼を生んでいくことを重視します。それは、もともと大事なことでブランド構築担当者であれば誰でも意識していることだと思いますが、facebookが、その関係値をより日常的で、直接的な距離感のものにしてしまいました。

 

なので、冒頭の期待感に戻ると、確かに、facebookなどは顧客にアクセスする確率を上げました。そういう意味では、楽になっています。また、一旦顧客を囲い込むと、殆どお金を使わずにコミュニケーションが可能になります。そういう意味では、金銭的にはとても楽です。特に中小企業にとってのメリットは膨大です。

しかしここで注意しなければいけないのは、顧客にアクセスできるということと、顧客との距離を縮めるというのはまるで別のことだということ。

そこでは長期的なcustomer engagementが必要で、これは多大な労力が必要です。

但し、大企業も中小企業も、ここのテーマにおいてはみな同じスタートラインに立っているどころか、中小企業のほうが社員からトップに至るまで個人個人の顔が見えやすいので、寧ろ有利に立っている部分もあります。あとは如何にその機会を活用できるか、ということになります。

 

平凡な結論ですが、結局、ソーシャルが可視化したcustomer engagementの世界には、機会の平等はあっても結果の平等はもちろん無いし、新しくやっていかなければいけないことは、お金で解決できるものではない分、却って面倒なものになっているとも言えると思います。後はそれをやりきるだけの覚悟と、本当に自社のサービスを広めたいという夢の本物ぶりが試されることになると思います。長期的に信頼を構築していくことが簡単に出来るわけがないということですね。

 

ところでこの中で具体的なツールとしてfacebookについては上げたのですが、twitterは取り上げませんでした。これが何故かについてはまたどこかでまとめてみようかなと思います。